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ヨムカク

KADOKAWAとはてなの小説投稿サイト「カクヨム」専門の読み専レビューブログです。

世界でたったひとり、どうしても嫌われたくない人がいる――「キミのココロについてボクが知っている二、三の事柄」はココロときめく泣けるミステリー

先日、先行作品の存在を引き合いにして辛口のレビューをしました。

ただ、先行する作品に類似する作品を書くこと自体は完全なる悪手ではありません。むしろ、優れた物語構造やアイデアは、たった一作品に収まりきるものではなく、そのバリエーションでも読者を楽しませることが可能です。

テンプレと呼ばれる言葉があるように、ひとたび人気となった形式を踏まえることは、人気小説を書くためのひとつの手段でさえあります。ただし、それは豊かなバリエーションを生み出すことのできるテーマであってこそ可能なこと。これほど多量な作品があふれる世の中では、非常に見極めが難しい部分かもしれません。

テレパスもの、というのもひとつの大きな人気設定です。

おそらく日本で一番人気のテレパスものといえば「七瀬ふたたび」でしょうか。「人の心を読むことが出来る」という能力は、昔からSF者のココロをつかんで離さない魅惑の能力です。逆に「人から心を読み取られる」テレパスものとして成功した作品といえば「サトラレ」が有名ですね。

kakuyomu.jp

本作品「キミのココロについてボクが知っている二、三の事柄」は、特定の相手の思考を読むことができる能力を描いています。

スクールカーストの低層に位置する主人公は、心を読み取られる側。そして問題テレパス能力を持っているのはスクールカースト上位のイケメン。そして物語のメインはこの2人が巻き込まれる、とある殺人事件。

探偵役がテレパス能力を活かした行動を推理や捜査に取り入れることの面白さはもちろんですが、真相や解決にいたるまでちゃんとその設定は活かされていて、以前別の作品のレビューで指摘した、異能ミステリの問題点も明確にクリアできています。

また、異能を持つ主人公たちの周りで偶然殺人事件が起きるのも、決して御都合主義ではありません。犯人の犯行の動機や、犯行に踏み切った決断の理由が実にユニーク。

そして何より、人の心を読む側と読まれる側の気持ちの揺れ動きかたを実にうまく描いていて、最後は涙を禁じえない切ない展開。

特に僕のようなタイプのひとには、本当に切なかったです。とてつもない奇跡の出会いなのに、越えられない壁を感じました。ごく個人的な思いで言えば、ぜひ彼の想いの成就を見たかった。

なお、本作はメフィスト賞の落選作らしく、ご本人による電子書籍化もされています。そのためかコンテストには不参加の作品になっています。 (4/14訂正)コンテスト参加作品でした。読者選考終了後のためか、現在は表示が消えているだけみたいです。

 

キミのココロについてボクが知っている二、三の事柄

キミのココロについてボクが知っている二、三の事柄

 

 

大変面白く読みましたが、一方でメフィスト賞落選は理解できる気がします。とはいえ、商品として書籍化には十分応えられる作品だと僕は思います。

宝島社のこのミス大賞などなら、隠し玉から文庫化して上手く売りそう。タイトルと帯とコピーとイラスト表紙をうまく組み合わせれば、泣ける青春ミステリーとしてライトな文芸ファン層にぴったりマッチして売れそうです。

文章は平易で、会話の比重も多めな、とっつきやすく読みやすい作品です。主人公の一人称とテレパスが会話するやりとりが面白く、さくさく読み進めることができます。

僕のように性格の悪い男じゃこうはならないとは思いますが、僕もスクールカースト上位のイケメンに心を読まれてこんなふうに泣ける奇跡に出会いたいと思ってしまいました。

イケメンペアを起用して映像化したりするとまた面白いだろうなあ。