読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ヨムカク

KADOKAWAとはてなの小説投稿サイト「カクヨム」専門の読み専レビューブログです。

「絵・美・死~ABC~ 色の魔術師」を読んで、架空の力学をとりいれたミステリーについて考えた

とある女子生徒・増場知恵をいじめ、死に追いやった美術部の生徒たち。

ある日、その生徒たちは知恵のたたりとしか思えないようなむごい目に遭う。
 
だが、知恵の妹・美憐は、美術部員たちを恐ろしい目に合わせた犯人をすぐに見破る。美憐は犯人の少年にこう持ちかけた。
 
「お願いがある――さらなる報復を遂げて欲しいの」
 
現在懲らしめることができたのは現役の美術部員だけ。いじめを先導していた元部長と副部長は無傷で生き残っている。なんでもするからあいつらの息の根を止めて欲しい――。
 
それに対し、少年はこう答えた。
 
「条件がある。僕はこれから、元部長に報復する……一体どんなトリックを使ったのか看破できたら、副部長も始末してやる」
  
という上記のあらすじはわざと誤解されるような書き方で僕が書きました。
 
上記のあらすじ、復讐譚形式の魅力もあり、ピカレスク的要素も感じるし、ミステリーとしてもおもしろそうじゃないですか?
 
しかし、本作、「絵・美・死~ABC~ 色の魔術師」の実態は、ミステリーでありつつも、異能バトル&サスペンスです。タイトルでクリスティのオマージュかも? ってワクワクした人はちょっと残念!
 

kakuyomu.jp

本作をレビューの対象に選んだ経緯はこちらを参照してください。(※4/15時点で該当のリンク先の記事は削除しました)

※今回若干辛口のレビューのため要注意(特に作者様)
 
ミステリーと異能の組み合わせ自体は決して否定しません。
 
そのジャンルでの人気作品を書いている作家だって珍しくありません。わかりやすいところでいうと西尾維新とかなのかな。本作を読んで思い出したのは復讐譚の形式ということで、佐藤友哉の「フリッカー式」なのですが。
 
ただ、異能に限らず、ファンタジーやSFといった架空の力学が存在する世界観でミステリーに挑むというのは実に難しい行為です。
 
なぜなら、架空の力学が存在する以上、「犯人は魔法を使った、以上、証明終わり」という身も蓋もない真相や解決が有効になってしまうから。
 
ただし、こうしたミステリーの無効化を回避する方法は、いくつか考えられます。
 
ひとつは、謎解きの焦点をずらすこと。動機当てや人間関係の謎解きなど、力学とは無縁の何かを謎解きの中心に据えるやりかたです。
 
それから、科学(サイエンス)と非科学(オカルト)を対比させて謎解きに挑む方法。(でもこれはどちらかというとほとんどは架空の力学や魔法の存在が否定されるケースで使われますね。カクヨム作品ではカンパネラの奇跡がそのパターンです)
 
それから、架空の力学におけるルールや前提を事前に示しておくこと。あくまでそのルール内でやるという方法。
 
他にも方法はまだまだあると思うのですが、主にはこういったやりかたかなと思います(カクヨム作品ではノアの箱庭あたりがこうした点を上手く表現できていますね)
 
本作はこの記事冒頭のあらすじで示したような物語の枠組みではよくできています。ただ、架空の力学を導入したことによるミステリー構築に関しては、満足できない点が散見されます。
 
本作には、登場人物の誤認や、関係、正体に関する真相の開示が後半に用意されています。また、異能によって起こされた犯行の真相解説もあります。
 
しかし、本作をミステリーとして捉えたときに問題となるのは、異能のルールや前提が登場人物の追加紹介が作品中盤や後半になっても次々と開示されるために、十分な状況を把握できていない印象がついてしまい、読者から推考する意欲がそがれてしまう点です。
 
すなわち、架空の力学が働いている以上、何が起きても不思議ではないという状況であるうえに、人物関係までもが追記の繰り返しで開示されるので、推考の余地があまりになさすぎるのですね。
 
また、本作が誰にとっての謎なのかが明確ではないというのも気にかかる点です。視点が混在するうえに、本作には重要なことを直前まで開示しない、「誠実ではない語り手」が存在します。このことが余計に架空の力学によるアンフェアネスを強く感じさせてしまうのです。
 
もちろん、これは本作をミステリーとしてとらえたときにどう読むことができるかという個人の思見でしかありません。
 
それでも、ミステリージャンルタグで参戦している以上は、わくわくさせる謎解きや腑に落ちる真相や良い意味で裏切る展開を読者に期待されることは明らかです。こうした思見を無視することはできないでしょう。
 
ただ、本作の美点も申し上げておきます。それは色彩の原理や美術のエッセンスをモチーフにした異能と学園ミステリーを融合させるという発想そのものは面白いということです。
 
惜しいのは、色彩や美術に関する現実の原理と、架空の力学が混ざり合ってしまうために、せっかくの色彩や美術というモチーフの薀蓄が活きていないことです。
 
序盤で異能によって可能なことや異能をめぐる背景を簡潔かつ明確に説明したほうがいいと思います。事前に背景を明確化し、そのうえで色彩や美術に関する子細を述べたほうがいい。
 
さらにいうと、色彩や美術に関する薀蓄も少し浅いですね。深水黎一郎さんや原田マハさんレベルのことをやれとまではいいませんが、そうした知識や状況を元に異能の謎解きが行われるのなら、本作は、相当レベルの高いミステリーになっていたはずです。
 
なお、言葉遊びに関しては本作においてまったく蛇足だと思います。
 
というわけで結論。
 
展開自体はわくわくさせるものがありますし、復讐譚と異能の謎解きを組み合わせる物語の枠組みづくりはかなり良くできています。着想やその組み合わせ自体も独自性があっていいでしょう。異能のネーミングや固有名詞のセンスは正直ちょっとダサい気がするから見直してほしいけど、まあそれは好みなので構いません。
 
でも、本書の作者にはミステリーとしての面白さをもっと大事にしてほしい。異能バトルや異能サスペンスを名乗るのなら止めませんが、作者の志向がその方向に向いているとは思えませんし、もしそうだとしたら駄作です。
 
ミステリーは、いわゆる本格がすべてではありませんし、謎解きのフェアネスも必須要件ではありません。
 
ただし、ミステリーと架空の力学をかけあわせるという意欲は、これまでミステリーというジャンルが蓄積してきた謎解きづくりの手法に対して、異なるやり方で挑むことなのだという意識は必要だと思います。架空の力学を導入すれば、いかなる設定でも許されてしまうがゆえに、読者に正しく挑まない安直な真相に逃げてしまいがちではないかと思います。
 
少し手厳しい感想かもしれませんが、あまり気にしなければ、本作、楽しく読むことは可能です。良かったら読んでみてください。ミステリーの書き手の方には参考になる点もあると思います。
 
なおこれはEP1までの感想。EP2というより個人的には新作での次回作に期待したいところです。
 

f:id:masafiro1986:20160325133235j:plain