読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ヨムカク

KADOKAWAとはてなの小説投稿サイト「カクヨム」専門の読み専レビューブログです。

少年のころ、夢をみた。剣と魔法の世界。冒険の旅。「降魔戦記」を描くのは神の仕事だ。

あなたが小説を好きになったきっかけはなんですか?

 
僕は小学校三年生のとき、図書館で出会ったアガサ・クリスティのおかげで、本を読む楽しさを知りました。でも、本に対して「なんて面白いんだ!」と思ったのは、そのすぐ後に富士見ファンタジア文庫スレイヤーズ!を読んだときがはじめてだったと思います。
 
ライトノベルらしい口語の一人称とコミカルな会話に加えて、剣や魔法で戦うファンタジーというジャンルが幼い僕にとっては衝撃でした。
 
小説はこんなことをやってもいいんだ!とはじめて気づいたんです。
 
自分の想像だけで、架空の世界の国や大陸や種族まで、ぜんぶ、なにもかも、小説家という人がつくることができるんだ! と感動したのを今でも覚えています。
 
あとがきを読んで気づいたんです。
 
ああ、そうだ、このひとは、この世界のかみさまだ! と。
 
だから、僕は、本作が架空の世界の描写を、大事に、そしてとても楽しそうに書いていることを素晴らしいと思えるのです。
 
 
カクヨム初登場時はファンタジージャンルの1位を獲得した本作。
 
この「降魔戦記」は、100年前に魔王を討った英雄ダラルードがふたたび仲間を集め闘いに身を投じ歴史をつくってゆく物語。
 
転生的な設定も含んでいますが、いわゆる現世から異世界にわたる異世界転生ではありません。主人公はかなり強いので、俺TUEEE的要素はあります。しかし、俺TUEEEには不似合いな三人称で、あまり読者の投影を呼び込むような構造だとはいえません。
 
しかし代わりに、地の文にたっぷり魅力をつめて書かれています。ともすれば陳腐といえるような表現やすかしたキザな描写でも、決してメタな目線にならず、気恥ずかしさを感じるほどに真正面から描いているのが素晴らしいです。
 
本作が90年代的と呼ばれるのも、そういう描写の懐かしさに起因する部分があると感じます。作者も言っていますが、いわゆる王道というのでしょうか。少年の心をくすぐる、熱さのある冒険ファンタジーです。
 
降魔という独自の設定はあるものの、本作には衒ったような奇抜な設定などがほとんどありません。ストーリーは強い主人公が仲間を連れて闘い勝利に向かっていくというオーソドックスさ。
 
読みやすさばかりに寄り添うような、描写の省略はほとんどありません。世界の地名、政情、風土や文化、土地の料理にいたるまで、作者がつくったロッシム大陸という架空の世界観が開陳されます。
 

f:id:masafiro1986:20160320222826j:plain

 
少し悪く言えば、効率のよい文章ではないのかもしれません。スマートではなく、ところどころ素人らしさを感じるほどの、手慣れなさを感じる文章だと思う部分もわずかにあります。
 
しかし、それは本作のよい部分です。カクヨムみたいな場所でこそ読める文章だと言ってもいい。作者はこの世界の魅力を誰よりも信じていて、それを読者に伝えたいのだという思いがそこに感じられるから。
 
僕はチートもハーレムもトラック転生も否定しません。ご都合主義も読者の欲望に寄り添う作品も否定しません。そういうものは文化だと思うし、切磋琢磨される作品の奔流から生まれた文脈だと思うから。ある種の賢さだとも思うわけです。でも本作はそういう賢さとは距離をおいています。
 
そういう意味でいえば、本作は洗練されていないダサさのある作品だということもできます。でも、ダサいほうがシブかったりするじゃないですか。
 
思うのですよ。ファンタジー好きだったら、やっぱりこういうものって好きなんじゃないかって。
 
きっと、こういうことはweb小説だから出来るんです。誰にも言われないから、書けるんです。プロになったら、たぶん、もっと売れる要素やひねりのある世界を求められる。気がします。僕はプロではないので、断言はできませんが。
 
そういえば、いま、綾瀬はるか主演の守り人シリーズのドラマ化作品、放送始まってますよね。一話を見たとき、ああ、こうなふうに鮮やかに架空の世界が共有されるって、なんて素晴らしいことなんだろうと感じました。僕は次話の放送をとても楽しみにしています。
 
本作は守り人シリーズと比べてしまうと、まだまだいささか作り物めいていて、ゲーム的なニュアンスを感じるきらいもあります。でも。それでも僕は本作のような無骨でまっすぐなファンタジーがジャンル上位にいてくれることを大変嬉しく思っています。
 
もちろん、下位の作品にも、見つけられていないだけで、いつかきっと僕を魅了してくれる作品はあると信じてます。
 
ただ、いまのところ、上位を中心に見ていると、「ほんとうにそんな架空の世界を描きたかった?」と思うような作品が多いと感じるのが本音なのですよね。
 
ここではない、どこかにあるかもしれない、そんな世界を書くこと。それはファンタジーの醍醐味ではありませんか。作者は神なのです、あなたがすべてに名前をつけていいんですよ。愛をこめ、要らぬものまですべてに名を与えるのは神の仕事です。
 
降魔戦記は、作者が熱量をこめて愛をこめて名づけながら書いている作品だと感じます。良い作品です。